大金が動くカジノは、人々に娯楽を提供する一方、犯罪集団のマネーロンダリングの舞台にもなってしまっています。そのため、世界各国のカジノではマネーロンダリング対策への関心がとても高まっています。これは、カジノ法案が可決された日本にとっても他人ごとではありません。そこで今回の記事では、カジノで行われるマネーロンダリングについて詳しく解説します。
目次
マネーロンダリングとは?
マネーローンダリング(money laundering)は、不当に得た汚れたお金を正当に得た綺麗なお金に見せかけるための「資金洗浄」のことを意味します。
汚れたお金というのは、
- 麻薬の取引
- 盗品の取引
- 振り込め詐欺(オレオレ詐欺)
- 違法賭博(裏カジノ、裏スロットなど)
- 脱税
- 粉飾決算
- 裏金
などといった犯罪行為で獲得したお金のことです。
こうしたお金をマネーロンダリングせずそのまま使ってしまうと、警察などの捜査機関に発見されて摘発されたり、差し押さえられたりしてしまいます。
様々な手法を使ってお金の出所や真の所有者が分からないようにすることで、捜査機関に発見されることを防ぐのです。
マネーロンダリングの仕組み
では、マネーロンダリングはどういった仕組みで行われるのでしょうか。
犯罪で得た汚れたお金を洗浄する過程は、
- プレイスメント(預入)
- レイヤリング(分別)
インテグレーション(統合)
という3つの工程に分けられます。それでは、それぞれの工程について詳しくみていきましょう。
①プレイスメント(預入)
犯罪で得た汚れたお金を銀行などの金融システムに入金する「預入」の工程です。この際、大きな金額の入金や取引は捜査機関に目をつけられやすいので、少額に分割して複数の口座に入金します。
②レイヤリング(分別)
プレイスメントで銀行などの金融システムに預けたお金を様々な取引を介して複雑化しお金の出所を分からなくする工程です。株式や不動産の購入など、複雑な取引を行うことで、元々その資金を獲得した犯罪行為との関係性が切り離すことができます。
③インテグレーション(統合)
プレイスメントで銀行などに預け入れ、レイヤリングで犯罪行為から分離させた資金を統合して回収します。元々は詐欺や麻薬の売買などの犯罪で獲得したお金が、正当な手段で獲得した綺麗な(ように見える)お金として手元に返ってきます。
具体的なマネーロンダリングの手口は?
実際に行われているマネーロンダリングの手口には次のようなものがあります。
- ペーパーカンパニーの売買
- 証券の売買
- 現金を密輸して、現地のオフショア銀行への預け入れ
- 実態のない取引を交わす
- 不動産や美術品の売買
- カジノの利用
カジノのマネーロンダリングの手口
犯罪で得た汚れたお金を綺麗にするマネーロンダリングでよく用いられる手法の一つに、カジノを利用した手口があります。
マネーロンダリングや資金洗浄という犯罪行為を連想されるワードは、どこか遠い世界やフィクションの中での出来事かのように思われるかもしれません。
しかし、IR(カジノを含む統合型リゾート)の誕生が予定されている日本の皆さんにとっても決して他人ごととは言い切れないのです。
では、カジノでのマネーロンダリングはどういった形で行われるのでしょうか。ここからは、カジノでのマネーロンダリングのやり方の一例を紹介します。
①カジノにお金を預け入れる
先ほど解説したマネーロンダリングの仕組みにおけるプレイスメント(預入)の段階です。
実際のカジノならチップに換金、オンラインカジノならそのサービスへの入金をすることで、犯罪で得た汚れたお金をカジノに持ち込むことができます。
現金をチップに交換できた時点でマネーロンダリングの第一の関門はクリアとなります。
②チップをカジノでやり取りする
次は、マネーロンダリングの仕組みにおけるレイヤリング(分別)の工程に移ります。
汚れたお金を持ち込んだ人物Aが、何かしらのギャンブルでそのお金を賭けて負けます。そして、仲間のBがAの逆にベットしたり、何らかのイカサマを行ったりして勝ちます。
こうすることで、実際には仲間内でお金が移動しただけなのにも関わらず、元々犯罪で得たお金はAが負けたことで失われ、Bはギャンブルでの勝ち金を獲得したという構図が出来上がります。
これで、犯罪行為からお金を切り離すレイヤリングの工程が完了です。
③カジノから綺麗なお金を回収
最後は、マネーロンダリングの仕組みにおけるインテグレーション(統合)を行います。ギャンブルに勝ちチップを獲得したBが、そのチップを現金化するだけで完了です。
この3つの工程を通じて、元々の汚いお金がカジノの勝ち分という綺麗なお金に変わります。これで、カジノを使ったマネーロンダリングは完結します。
カジノはマネーロンダリングに利用されやすい
カジノは、犯罪で得た汚れたお金をギャンブルに負けることで一時的に手放し、仲間が勝つことで綺麗なお金として再度回収するという形でマネーロンダリングに利用されます。
実際に、マカオなどのカジノやオンラインカジノでマネーロンダリングが行われた事例もあり、発覚していないものも合わせれば、かなりの資金がカジノを利用して洗浄されていると推測できます。
では、なぜカジノはそうしたマネーロンダリングの温床となってしまうのでしょうか。カジノがマネーロンダリングに利用されやすい背景には、次のような理由があります。
カジノでは、日常的に大金が動いている
どこの国のカジノでも、マネーロンダリングとは関係なしに、日常的に大金がやり取りされています。
一瞬で数千万円以上のお金が動くことも珍しくないカジノでは、マネーロンダリングによる大金のやり取りがあってもあまり目立ちません。
多額のお金をやり取りしても発覚しづらいカジノは、マネーロンダリングがバレにくい理想の環境となってしまっているのです。
エンターテインメントビジネスであるという特徴
カジノは、大きなお金が動くエンターテインメントビジネスです。
そのため、マネーロンダリングへの対策などのコンプライアンスへの関心がまだまだ低いという現状があります。カジノ側が、マネーロンダリングに利用されないための工夫や努力をすることも重要なのです。
現金取引がメイン
カジノ内でのギャンブルは基本的にチップを用いて行われます。そのチップを「お金」に変える取引は、実は現金取引が主流なのです。
犯罪行為で獲得した現金をそのままチップに変えられるという点も、マネーロンダリングに利用されやすい理由のひとつといえるでしょう。
匿名性が高い
とくにオンラインカジノで顕著なことですが、カジノでのゲームプレイは匿名性が高いという特徴を持っています。
マネーロンダリングをしたい犯罪者たちにとっては非常にありがたいものですよね。この匿名性も、カジノがマネーロンダリングの温床となる原因に挙げられます。
カジノ法案におけるマネーロンダリング対策
今のところ、カジノでのマネーロンダリングが行われているのは、海外のカジノやオンラインカジノがメインです。
しかし今後は、IR(カジノを含む統合型リゾート)が作られる予定の日本でも、カジノが犯罪集団のマネーロンダリングに利用される可能性は十分にあります。
そのため、犯罪集団が資金洗浄できないように、マネーロンダリング対策を施すことは日本政府やカジノ側にとってもかなり重要な課題といえます。
マネーロンダリング対策は、AML(anti-money laundering)とも呼ばれ、世界中でも非常に重要視されているテーマ。
日本のカジノもグローバルな目線で、AMLに力を入れることが求められるのです。
日本で新しく作られるカジノが、マネーロンダリングの温床とならないようにするために取れる具体的な対策には、以下があります。
新規顧客受け入れの対策 | 身分証明書の確認を徹底し、登録を義務付ける |
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セキュリティの強化 | ゲームをプレイする人の言動に不審な点がないか日ごろから監視する |
スタッフの教育 | マネーロンダリングを防ぐという意識の徹底 |
最後に
マネーロンダリングが容易に行える環境では、振り込め詐欺や麻薬・盗品の売買、違法賭博などの犯罪行為でお金を得る犯罪集団が足のつかない綺麗なお金を簡単に手に入れることができます。
こうした犯罪集団にとって有利な状況をカジノが作り出してしまうことは、望ましい事態ではありません。
カジノがマネーロンダリングの温床にならないようにするためにも、マネーロンダリングの仕組みや手口を把握して、利用されないよう対策を施すことが求められます。
日本のカジノを守るためにも、社会を健全に保つためにも、マネーロンダリング対策が万全な健全なカジノを作ることが何よりも重要なのです。